がんには「がんもどき」がある

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか 近藤誠

胃がん診断のエクスパートになろうと思い立ち、「胃と腸」という消化管のがん診断についての医学雑誌のバックナンバーを何十冊も買い込んで読破しました。
その途中で「あれっ」と気づいたことがありました。
早期がんが見つかった人の検査の写真を見直すと、数年前から病変があったのに見落とされていたケースが時々掲載されていたのです。
それらはスルーされたのに何年たってもがんは大きくならず、進行がんにもならなかったわけです。
ただ、すべてのケースに胃切除が行われたので、放置を続けた場合にどうなるかは不明です。
医者1年目の僕は疑うことを知らず、「がんは増大する」「がんは切るべし」という社会通念に染まっていたため、そういうのは特殊なケースだろう、万一にも進行がんになると困るから、やっぱり手術だろう、と単純に考え深く追求しませんでした。

もし早期胃がんを放置したら?という疑問に答えを出したのは、90年代になってからです。
今では、「見逃された早期胃がんは、さらに放置を続けてもそのまま」だと、確信をもって言えます。
胃がんを放置しても大丈夫なこと、がんには「がんもどき」があるという証拠は専門医学誌の中にあったのです。