2つのバースデー 1

時計の針が午後7時半を指した。
L字型のガラスケースに残ったケーキはあと少し。
いつもなら「あと30分で閉店だ。晩御飯、何食べようかなあ~」なんて考えている時間。
でも今日は違った。ガラスケースの隅っこで売れ残ったケーキが気になっていた。
それは、私が初めて作ったケーキ。

小学校の卒業文集には「将来の夢はケーキ屋さん」と書いた。
でもそれは売り子さんとしてであって、まさかこうして自分が作ったケーキを、お店に並べる日が来るなんて思ってもみなかった。
ここは遠い親戚のおじさん夫婦が経営している小さな洋菓子店で、私が高校2年生のときからアルバイトとして働き始めたお店だった。

実際働くようになって知ったのは、ケーキ屋さんという職業って、見た目の可愛さとは裏腹にとても厳しい仕事であること。
早起きしてその日の分のケーキを作って、1つ1つ値段をつけていくんだけど、高級チェーン店ではないからそんなに高い値段もつけられない。
1日の売り上げは、どうしてもお店を経営する上でのギリギリの数字になってしまう。
そんな大変な状況で続けていくには、やっぱりケーキ作りへの情熱があふれていないといけない。
その点でおじさん夫婦はケーキ作りを何よりも愛していたし、そんなおじさん夫婦の力に少しでもなりたくて、私も毎日一生懸命働いた。

フランスで修行したおじさんが教えてくれるケーキ作りは奥深くて、どれも工夫に満ちたものばかりだった。
私の大学ノートはどんどんケーキのレシピで埋められていって、気づけば5冊分たまっていた。
やがて私は製菓衛生士の資格を取り、一人前のパティシエになったような気分を味わっていた。
そんな私が自分で1から作ったケーキが、今お店のガラスケースに並んでいる。