お父さんのカメラ 3

ハンバーグ、たこさんウインナー、カニクリームコロッケ、私の大好きなご馳走が所狭しと並んでいる。
うれしさがこみ上げると同時に、ふとテレビの上のカメラが亡くなっていることに気づいた。
「あれっ、お父さんのカメラは?」
「大丈夫よ、次の給料でちゃんと返してもらえるから。これはお父さんとお母さんからのプレゼントやで」
母は大事な父の形見を質屋さんに入れて、そのお金で今日の誕生日会を用意してくれたらしい。
「あっ、そうそう、ケーキもあんねんで!」
うれしさと同時に申し訳なさを感じながら、ケーキにロウソクを立てる母の様子を眺めていた。
するとピンポーンという音。玄関を開けると
「こんにちは~!」
めぐみちゃんと、もう一人の仲良しのあゆみちゃんがいた。
「今日ゆかりちゃんの誕生日やんね? このお花あゆみちゃんと二人で用意したの! あげる!」
「えっ?」
「ゆかりちゃん、すぐ帰っちゃうから二人でめっちゃ探してんで!!」
すると、奥から母の声がした。
「めぐみちゃん、あゆみちゃん、今からお誕生日会やるから入っておいで」
「あれ~?」あゆみちゃんは、ぱっと目を大きく開いた。
「ゆかりちゃん、私らがくること知ってた~ん?」
その質問には答えられなかった。
涙がぽろぽろこぼれてしまって。

「ゆかりちゃん、誕生日おめでとう!」
私はもらったお花を強く抱きしめて、声にならない声で言った。
「めぐみちゃん、ありがとう。あゆみちゃん、ありがとう」
結局、私はまたわんわん泣いてしまう。
「お父さんお母さん、ありがとう」

でも全然苦しくない、胸の中があったかくて。
涙にもいろいろあるんだって、この時初めて知ったんだ。

この後で聞いた話なんだけど、父のカメラはあまりに古すぎて、すでに質草なるほどの価値は全然なかったらしい。
でも、私たち親子のことを昔から知る質屋のおじさんが、何も言わずに気を利かせてくれたのだそうだ。
私の忘れられない誕生日、それはたくさんの人たちの思いやりに溢れていたんだ。