黒子の兄

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

実家が火事になり、父が心臓発作を起こしたことをきっかけに、兄がカメラマンの夢をあきらめて伊勢に帰ってきたときです。
僕が興したレストランウエディングの事業を手伝うと聞いて、母は言いました。
「兄弟で仕事をすると、お金のことやなんかで、もめて仲たがいすることがよくある。そやからなあ、あんたらがいがみ合うようだったら、お母さんが力ずくで、あんたたちの店つぶすで」
母がこう言ったら本気だということは、分かっていました。
だから僕も兄も、不満があったり、ぶつかりそうなときは率直に言います。
パンパンにたまる前に言うと、ケンカにならないのです。

しかし、そんな言い合いもめったにないのは、兄が「貧乏くじは皆、俺が引いたる」と言ってくれているからです。
「おまえみたいな自由な発想で人を動かし、ピョンピョン飛び回っている人間は、細かいことを見たらあかん。面倒はいっさい引き受ける。俺は、お前の黒子に徹するときめたんや。
その覚悟がなければ、お前とは付き合えないことくらいは、小さいころからずっと知っている俺は、分かっているから安心せい」

僕が講演を頼まれて1週間も2週間も店を空けても、電話1本かかってこないのは、この兄のおかげです。
こっちが寂しくなって電話をするくらいです。