母とは

45歳女性の投稿より

「〇〇ちゃん、お母さんがきたよ~」
校門をくぐった母の姿を目ざとく見つけた級友が、大声で私に教えてくれました。

家を出る時「今日は寒いから、カーディガンを着ていきなさいよ」という母の声が追っかけてきましたが、無視して登校したことを思い出しました。
小学生といえ、最上級になると人並みにオシャレに目覚めます。
「着ぶくれするのが嫌で、薄着で我慢しているのに・・・」

そんな日は必ず母が、上着を届けに学校までやって来るのでした。
農作業の途中で、そのまま来るので、着ているのはモンペに古びたブラウス、おまけにとどめの長靴です。
級友の視線が気になり、私は消えたいくらい惨めでした。

帰宅すると、ランドセルを背負ったまま、学校でどんなに恥ずかしい思いをしたか延々とぶちまけました。
母は台所で洗い物をしている手を止めずに、私の罵倒を黙って背中で受け止めていました。

あれから30年以上の歳月が流れました。
体調を崩し、入院中の母の身体を拭いていて気がつきました。
母の背中は、悲しいくらい小さくなっていました。
自分も母になって、ようやくあの時の母の心情が理解できるようになりました。
「私の身体を気遣って上着を届けてくれたのに、憎まれ口をきいて、ごめんね・・・」
母に、私の心の中を言葉にするのは初めてでした。
母は何も言わずに、そっと頷いてくれました。

涙で曇った私の目に映ったのは、紛れもなく昔のやさしい母の後ろ姿でした。