延命治療の過酷さ

うまいこと老いる生き方

54歳精神科医 先生は随分前から、いつお迎えが来てもいいように準備をされてきたようですが、そこについてお話していきたいです。

92歳精神科医 私は、できるだけ楽に死にたいと思っていたから、60歳くらいから、家族には「延命治療は絶対にいらない」と伝えていたね。

54歳 わかります。医者や看護師で、延命治療を受けたいと言う人には、今まで出会ったことがありません。基本的に医療者が望まないような治療は、患者さんにもしない方がいいと思うのですが、日本の医療では今も多くの病院で、高齢者への延命治療が行われています。

92歳 やっぱり、それが実態なんやね。

54歳 80歳を優に超えて、平均寿命を上回っている高齢者に対して、家族が望めば人工呼吸器をつなぎ、ICUで治療が行われることがあります。人工呼吸器に乗せることになると、チューブを口から喉の奥へと突っ込んで、強制的に機械につないで呼吸させますので、意識があると非常に苦しいんです。そこで、麻酔薬を使って眠らせます。それでも、よくならなかったら今度は喉を切開して、チューブをのどに直接差し込みます。

92歳 そこまでしたところで、元通りになるとは限らないわけやしな。

54歳 そうですね。また何週間もベッドで寝かせきりで治療を行うと、筋力も低下するし、意識もしっかり戻り切らない場合も少なくありません。命は取り留めたとしても、満足に会話もできず、食事もとれない寝たきりの状態になり、体に何本も点滴や管をつながれて、スパゲッティー状態になってしまう方が非常に多いわけです。