高齢者のガンを切除することには消極的

70歳からの選択 和田秀樹

なぜ、ガンが発生するのか、現在の研究では、細胞が再生産され続けるなかで「ミスコピー」が起こり、遺伝子情報が正しくコピーされないことにより、それがガンのもとになるという考え方が主流になっています。
通常、そうしてできたミスコピーの細胞は、若いうちはNK細胞(ナチュラルキラー細胞)と呼ばれる免疫細胞が殺してくれるので、ガンにはならずに済みます。
ところが、40~50代になるとNK細胞の活性度が若いころの半分くらいに落ちると同時に、ミスコピーの細胞は歳を取ればとるほど多く生成されるため、高齢者ほどミスコピーの細胞が体に残りやすく、ガンにもなりやすくなるというわけです。
ただし、体に残ったミスコピーの細胞が、必ずガンになるわけではありませんし、ガンになるとしても、10年、20年といった時間がかかります。

ガンは若いうちにかかるほど進行が速いという傾向にあります。
一方で、70代以降の高齢者にガンが見つかったとしても、進行が遅いことが多く、激しい転移もあまり見られません。
そのため、私は高齢者のガンを切除することには消極的的な立場です。
というのは、例えば胃がんの患者の場合、手術でガンをすべて切除できたとしても、手術後は栄養が十分に入ってこなくなるので、その後の衰弱が激しくなりがちで、高齢者ではその衰弱の方が心配だと考えるからです。
何歳まではガンを切る方がいいのか、何歳からは切らない方がいいのか、ということは、ガンのタイプやできた部位によっても異なるので、一概には言えません。
大雑把に言えば、たとえば消化器系のガンなら60代までは手術し(それでも大きく切る手術は反対ですが)、70歳を過ぎれば余命のことを考えても切らない方がいいと考えています。

高齢者はたとえ転移してもガンの進行は遅いわけですから、体力を落とすような切り方をするよりは、ガンだけを切除する方がいいのです。