進路相談ができない環境

ココロの架け橋 中野敏治

具体的に進路先を決めていく中学3年生の二学期のある晩、私が担任をしている男子生徒の保護者から、私の自宅に「進路のことで相談したいのですが、明日、学校へ伺ってもよろしいですか?」と電話が入りました。
翌朝、朝の会で彼は元気がありませんでした。
彼にそっと声をかけました。
「昨晩、親と進路の話しをしたの?」と。
彼は一言、「もういいんだ。決まったから」というだけです。
「放課後、お母さんが来るから一緒に話そう」と声をかけたのですが、彼はうつむいたままでした。

帰りの会が終わり、彼に声をかけました。
「相談室で待っていて。もうすぐお母さんが来ると思うから」
相談室で彼と母親と私の3人で話しを始めました。
母親が話し始めました。
「この子は父親と進路先の相談ができないのです」
すると、その母親の話しを遮るように彼が「もう決めたって言ったじゃん!」と大きな声で言うのです。
「でも、本当にそれでいいの?」と母親は息子に声をかけました。

以前、彼の腕にひっかいたような傷跡が残っていました。
それに気がついたとき、彼に尋ねたことがあります。
彼は「自分でやっちゃった」と明るく答えました。
その後もまた傷跡が、今度は彼の頬が赤くなっているのに気づきました。
彼に聞くと前と同じように「自分でやっちゃった」とさらっと言うのです。
不思議に思い、彼に問い詰めると、彼はぽつりぽつりと話し始めました。