自分を分かってくれる存在

苦しみのない人生はない 幸せはすぐ隣にある 小澤竹俊

末期ガンと診断され、入院を希望せず、じっとその時を待つ人がいました。
最初に訪問診療に伺ったときの様子は、とても印象的でした。
「もう自分の人生は終わりだ」
「もう早くおしまいにしたい」
「早く楽になれる薬はないのか?」
一方的に自分の苦しみを訴えるばかりです。

ある人は、こう言うかもしれません。
「まだ人生はやり直すことができる。生きていればきっと良いことがある。弱気になっては駄目だ。がんばればなんとかなる」
しかし、私の経験からすれば、そのような言葉は苦しむ人の心には響きません。
「簡単に言うなよ。おまえは元気だろう。俺の気持ちなんて、おまえに分かるわけない!」
そう怒鳴られるのが関の山でしょう。

絶望としか思えない状況の人が、暗闇の中で灯を見つけることができるのは、励ましや勇気づけではないのです。
自分自身の苦しみを分かってくれる誰かの存在なのです。

たとえ過去に、どんな人生を歩んできたとしても、たとえ今が、どれほどひどい状況であったとしても、たとえ将来が、いのちが限られていたとしても、自分自身の苦しみそのものを分かってくれる誰かがいたならば、不思議ですが、マイナスの気持ちだけでなく、何か言葉では言い表せないプラスの気持ちが芽生えてくるものです。