究極の聞き上手 2

世界でも有数の毛織物会社がまだ創立間もないころ、社長の所に一人の顧客が怒鳴り込んできた。
この客には少額の売掛金が残っていた。しかし、当人はそんなはずはないと言い張る。
社長には、絶対間違いがないという自信があったので、再三督促状を送ったのである。
すると、顧客は遠い地からはるばる社長の事務所まで駆けつけ、支払いどころか今後一切取引をしないと言い切ったのである。

社長は、彼の言い分をじっと我慢して聞いていた。
何度か言い返そうかと思ったが、それは得策ではないと思い返し、言いたいことを残らず言わせたのである。
言うだけ言うと彼は興奮も冷め、こちらの話しも分かってくれそうな雰囲気になった。
そこを見計らって社長は「わざわざ当社までおでかけくださって、何とお礼を言っていいか分かりません。本当にいいことをお聞かせくださいました。うちの係りの者がそういうご迷惑をお掛けしているとすれば、私の方から、あなたにお会いし、お話をお聞きに上がるべきところでした」と言った。
顧客は、こういう挨拶をされようとは夢にも思っていなかった。
社長たちをとっちめるために、わざわざ乗り込んできたのに、反対に感謝されたのだから些か拍子抜けしてしまった。
社長は更に言う。
「私どもの事務員は、何千という取引先の勘定書を扱わねばなりません。ところが、あなたは私どもの勘定書だけに注意をしていればいいわけですから、どうも間違いは当方にあるようです。売掛金の件は取り消させていただきます」