病棟の鍵を開けると

いのちの言葉 精神科医 なだいなだ

当時、外国でも精神科病院の鍵を開ける運動はありました。
私はそうではなくて、単純に逃がそうと思って鍵を開けたんですね。
逃げてもらった方が楽だからということで、看護師さんたちも賛成してくれました。
しかし、困ったことに、鍵を開けたのに誰も逃げてくれないのです。
そこで、何で逃げないのだろうと皆で相談すると、「そりゃ、電車賃を持っていないからですよ。ここから東京まで70キロもありますよ」ということになりました。
それじゃあ、患者に電車賃を持たせようと、お金を持たせたんです。
ところが、それでも逃げません。
そこで、患者に「なぜ、逃げないんだ」と聞いてみました。
すると「先生、日本に鍵を開けて、しかもお金まで持たせるという病院がどこにありますか」と言われました。
そこで初めて、患者さんからみたら、これはいい病院かもしれないな、ということに気がついたのです。

同時に、これは治療の上でも効果があることにも気づいたのです。