戦争体験

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

戦争中は・・・といっても若い人たちに実感は届くまい。
戦争は無論いやだが、戦争体験は得難いと思っている。
戦争中は、食べるものの有難みを骨の髄まで知ることができた。
やせた芋でも、天下の美味に思えたものだ。
飽食時代のグルメなど、及びもつかない幸福の味であった。

子どもたちがまだ幼いころ、我が家には「空襲記念日」という行事があった。
昭和20年5月25日のアメリカによる東京大空襲で、病院と我が家は全焼し、何もかも失ってしまった。
我が家は何もかもなくしたその中から立ち上がり、今日がある。
空襲記念日の5月25日には、電気を最小限度の明るさにする。
当時は、光が外に漏れないように電球を黒い布で覆わなければならなかったからだ。
食事はすいとん、野菜くずを浮かせた汁に、うどん粉を練って団子状に丸めたものを入れて煮たものだ。
親子ですいとんをすすりながら、戦争中の話しをあれこれ聞かせた。

こうした語り伝えも、子どもの想像力を様々に刺激する1つの方法だと思ったものだ。