小銭作戦

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

子どものころから、おっちょこちょいの僕は、車内販売のコーヒーを買おうと小銭入れを出した途端、あやまって中身を全部床にばらまいてしまったのです。
小銭は当然、隣の席まで転がっていきましたが、人が小銭をばらまいてしまったのを黙って見ている人はいません。
そのとき隣で本を読んでいた営業マン風の中年男性も、慌てふためいて小銭を拾う僕のために
「おおおお、こっちにも、こっちにも・・・、これで全部かな」
と言いながら拾うのを手伝ってくれました。
そうすれば僕としては当然、
「いやあ、申し訳ないです。ほんとうにご親切にすんません」
ということになります。
すると、その営業マン氏も、
「いやいや、誰にでもあることですよ」
と言ってくれました。
そこで、「すんません。どんくさくて・・・。よかったらコーヒーいかがですか。小銭やったら、見てもろうたとおり、なんぼでもありますから」
「ハハハ、そうですか。すみませんね」
となって、きわめて自然な流れで、2つのコーヒーが2人の前に並ぶことになりました。

いくら上手に質問しようとしても、あるいは聞き上手の人だったりしても、最初に心の門を開くのは難しいものです。
そんな中で、「これはいい」と思った僕は、この「小銭作戦」のお世話になりました。
いざという時、小銭入れを開けながら、手を滑らせればいいのですから。