兄がくれた腕時計 4

それから2か月がたった頃に突然、専門学校時代の友達から連絡がきた。
「会社に欠員が出たから力を貸してほしい」
そこは小さいけれど映画を扱う会社だったので、私は二つ返事で了承した。
こうして、私はずっと望んでいた仕事に就くことになる。
あんなに苦労した就活が、まるで嘘のようにあっけなく終わった。
そして、この後待っていたのは、大変だけどやりがいのある仕事に恵まれる日々だった。
今の旦那とも、その会社で出会うことになる。

もしもあの時、面接を受けそこなったあの会社に入っていたら、まったく違う人生が待っていただろう。
その人生が今より幸せだったかどうかは分からないけれど、私は今ある日々で良かったと思っている。

今年から小学生になる一人娘にもいつも言っている。
「せかせかしなさんな。ゆっくり時間をかけよう」
兄がくれた大切な誕生日プレゼントは、今も机の引き出しにしまってある。