健診でがんにされてしまう

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

健診でがんにされてしまう原因にはもう1つ、日本の診断基準そのものの問題があります。
たとえば、胃や腸の粘膜の中に、異常な細胞が見つかった場合、日本では粘膜内ガン(上皮内がん)と診断し手術します。
ところが欧米では、粘膜よりも深いところに入り込んで初めて、がんと診断します。

あるいは、乳管の中にだけにとどまる乳管内がん、または非浸潤がんと呼ばれるものがあります。
これは放っておいてもどうということはないので、アメリカでは政府の委員会が「がんと呼ぶのはやめよう」と提案しています。

がん検診は、役に立たないというよりも、なまじ受けると健康なのに、がんにされてしまうという意味では有害ですらあります。
とはいえ「本当に健診を受けなくてもいいの? 健診を受けないほうがいいという証拠はあるの?」と心配する人もいるでしょう。
実は、それを実証した村があるのです。

長野の泰阜村(ヤスオカムラ)です。
発端は、当時診療所の医者であった網野皓之さんが、胃がんの集団検診に意味があるのかどうか、疑問を抱いたことでした。
様々な文献を調べて、検診した人々としない人々で生存率に差がないことを見極めた網野さんは、行政や村民に働きかけます。
そして1989年に、泰阜村は胃がんの集団検診を廃止。
その結果、それ以前の5年間には村民死亡者の6%を占めていた胃がんが、その後の5年間では2.2%と、半分以下に減ったのです。

もしも、健診が胃がんによる死亡を減らすのであれば、結果は反対だったはずです。
ところが、健診をやめたら、胃がんで死ぬ人が減ったのです。
おそらく、胃がん健診がなくなったことで、自覚症状もないのに健診を受ける人がいなくなり、小さながんやがんもどきが見つかることがほとんどなくなったのでしょう。
そのため無駄な治療を受ける人が減り、手術の後遺症や抗がん剤の副作用で亡くなる人が減ったということだと思います。