他の人のために

ココロの架け橋 中野敏治

きっと遅くまで録音し、自分の声が入っていることも忘れ、私にカセットテープを手渡したのでしょう。
クラスメートも、録音は簡単にできるものだと思っていたと思います。
私は黙って、放課後までに彼女の声が入っていた部分を消しました。
そして、何もなかったようにカセットテープを使い、パート練習が始まりました。

彼女は、自分の苦労を誰にも話しませんでした。
合唱コンクールでクラスは優勝しました。
その結果が出たとき始めて私は、彼女の苦労をクラスメートに話しました。
「わーっ!」とクラスメートは彼女に駆け寄りました。
彼女は恥ずかしそうに、でもちょっぴり嬉しそうに受け入れていました。

クラスのために苦労をいとわない。
そんな1人の力がクラスをまとめたのです。