世界で一番幸せ

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

すい臓がんだった戸田静子さん(78歳 女性)のご主人は、「家にいたい」といって、小笠原内科の在宅ホスピス緩和ケアを受けていました。
その時は、静子さんが自営業をしながらご主人の介護や看病をし、夫婦2人で暮らしていました。
ご主人は自宅で過ごすことができる喜びと、静子さんに感謝の気持ちを込めて「「日本一幸せ」という書を色紙に残して旅立たれました。

その5年後、近くに住む静子さんの娘さんが相談外来に来ました。
「先生、母が呼吸不全で通院できなくなったのですが”私も入院せずに最期まで家にいたい”というんです。在宅ホスピス緩和ケアが素晴らしいことはわかっているのですが、母は一人暮らしなので心配です」
「大丈夫ですよ。一人でも最期まで家で暮らせるし、痛みや苦しみは取れるので、好きなことをして朗らかに過ごすことができますよ。だったら、その願いをかなえてあげることが一番大切なんじゃないかな」

在宅ホスピス緩和ケアを開始するとと、酸素吸入をしていた静子さんは、苦しくなるとモルヒネワインを飲み笑顔で暮らしていました。
在宅ホスピス緩和ケアを開始してから1年が経った頃、静子さんは物忘れがひどくなり、認知症の症状が出てきました。
さらに1年後には喀血があったり、肺炎にかかると、ついに歩けなくなり這いずって暮らすようになりました。
娘さんは、このまま自宅にいて大丈夫なのかと、とても不安になっていました。
ところがベッドから降りれなくなって2日目のことでした。
静子さんが娘さんにこう言いました。
「世界で一番幸せ。ありがとうね。いつ死んでも悔いはないよ」