与えることは与えられること

苦しみのない人生はない 幸せはすぐ隣にある 小澤竹俊

いのちの限りがある人との関わりから学んだことの1つは、誰かのことを思い、気遣う人は、たとえ困難や苦しみの中にあっても、心豊かに生きていくことができるということでした。

Sさん(80代 男性)の話しを紹介します。
Sさんは地元で食品を加工するお店を経営しながら、長年民生委員として活動してきました。
自治会の役員や、地元のお祭りのお世話なども積極的に引き受けてきました。
80歳を超えたある日、軟磁性の肺がんと診断されました。
やがて衰弱は進み、ベッド上での生活となりました。
一人で歩くことも立ち上がることもできません。
それでも、訪問診療のときに見せる表情はいつも笑顔がありました。
それは、いつも、街の誰かのことを気にかけていたからです。
Sさんは、自分のことよりも、家族や商店街の友人のことをいつも気にしていました。
やがて、静かにお別れのときは来ましたが、誰かを思い続けるSさんは、最期まで、心穏やかに自宅で療養することができました。

Sさんが穏やかに過ごすことができたのは、Sさんに強い精神力があったからではありません。
誰かを思うことで、Sさんが多くの人から支えをいただいていたのです。
与えることは、与えられることなのです。