下座に生きる 4

そう言い終わると三上さんは病室に戻りました。院長は追って来ませんでした。

「おい、こっち向けよ。今日は一晩看病させてもらうからな」
すると少年は「チェッ、物好きな奴やな」と言いながらも三上さんに顔を向けました。
「ところで、お前の両親はどうした?」
「そんなもん、知るけ!」
嫌なことを聞くな、と拒絶するような雰囲気です。
「知るけっ!て言ったって、親父やお袋が無くて赤ん坊が生まれるかい」
少年は激しく咳き込んで、血を吐きました。
「俺はなあ、うどん屋のおなごに生まれた父なし子だ。親父はお袋のところに遊びに来ていた大工だそうだ。お袋が妊娠したって聞いた途端、来なくなったってよ。お袋は俺を産み落とすとそのまま死んじまったんだ・・」
「そうか・・」
「うどん屋じゃ困ってしまい、人に預けて育てたんだとよ。そして俺が7つの時に呼び戻して出前をさせたんだ。学校には行かせてくれたが、学校じゃいじめられてばかりいて、ろくなことはなかった。店の主人からもいつも殴られていた。ちょっと早めに学校に行くと、朝の仕事を怠けたと言っては殴られ、ちょっと遅れて帰ると、遊んでいたなと言って殴られた。食べるものも、客の食べ残ししか与えられなかった。だから14の時に遊びだしたんだ」
「何をして暮らしていたんだい・・」
「神社の賽銭泥棒だ。だがな、近頃はしけててあんまり賽銭は上がってこない。そいで新興宗教のお賽銭箱を狙ったんだ。でも直にばれてしまい、警察に捕まり、少年院に送られたが、肺病にかかって、ここに入れられたんだ」
「そうか、いろいろなことがあったんだな・・」

短い坊主頭に、禅僧が作業するときに着る作務衣に似た木綿の筒袖を着た三上さんは、お世辞にも美男子ではない。
じゃがいものようにごつごつした丸顔に、少年はすっかり心を許したようだった。