トムとアン 4

友人たちはみな、トムがリンガー社を辞めることに批判的でした。
「なあトム、給料のいい会社を何で辞めてしまうんだい?奥さんのアンも、うんと苦労することになるぞ」
でも妻のアンはそうは考えませんでした。
「収入は確かに減るわ。でも、それだけのことでしょ。人が生きていく上で、お金よりも大切なことはいくらでもあるものよ」
トムも、当時を振り返って「転職するたびにお金に対する得体のしれない不安は、だんだん薄らいでいきましたね。もちろんアンも働いてくれていましたので、経済的にも精神的にも私を支えてくれました」
トムは、高い給料の為に自分を殺して働くことはもうやめた。意義のある目的のために自分を生かして働こうと決めたのでした。

トムは企業で学んできたマーケティングの技法を、難民救済プロジェクトなどにも応用できることに気づいていました。
それ以外にもビジネス界の様々な手法が公益にも活用するべく、自分という人間が持てるすべてを生かそうとしました。
「自分は社会のために少しでも貢献している・・」そう実感できることが、トムには大きな充実感であり喜びでした。
そして、いつしか「豊かな人生を送るために、お金はそれほど重要なものではないかもしれない」と思うようになっていました。