ジョン万次郎 3

ある時友人が「君、日本に帰って、お母さんに会いたくはないのかい?」と尋ねた。
万次郎は「帰りたくない!」と言ったかと思うと、涙がどっと溢れた。
「私の国の人は、大変悪い人たちだ。私が帰れば殺されるだけだ!」と泣き声で語った。
友人は、こんな質問をしたことを悔やんだという。

やがて万次郎は、捕鯨船の一等航海士、副船長へと異例のスピードで昇進した。
万次郎は、帰国計画を着々と進めていた。
ハワイに行って、漂流した仲間と合流する。
中国へ向かう捕鯨船に乗り、琉球付近でおろしてもらう。
そこからボートで上陸する。

万次郎は町の人気者だった。
ホイットフィールド船長や友人たちは、万次郎の帰国を惜しんだ。
彼らは万次郎に「アメリカできちんとした教育も受けた。一等航海士にもなった。何不自由にない生活をしているのに、どうして日本に帰らなければいけないのか?」と言う。
万次郎は「私のは母は、私をもう死んだものと思っているでしょう。私は、なおこの世に生きていて、どんなにか母を愛しているということを知らしめるために帰国せねばなりません」と訴えたのだった。