やしきたかじんさんの場合

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

タレントのやしきたかじんさんに食道がんが見つかったのは、亡くなる2年前、2012年1月末でした。
芸能活動を休止し、無期限休養に入ったたかじんさんは、2月に入院、抗がん剤治療を受けます。
抗がん剤で、できるだけがんを小さくしてから手術するためでしょう。
そして4月に食道を切り取る手術を受けます。
食道を、上の少しを残してほぼ全部切り取り、胃を下から引きあげてつなぎ、食道の代わりをするという大規模な手術でした。
ただし、お腹や胸を大きく切り開く手術ではなく、小さく開けた穴から体の中にいろいろな器具を入れて行う、いわゆる内視鏡手術です。
内視鏡手術は傷口が小さくてすみ、痛みも少なく、手術後の回復も早いと言われています。
簡単で安全だというイメージがあるため、手術への抵抗感が少なく、患者さんが手術に同意しやすいという、医者にとってのメリットもあります。

おそらく、たかじんさんもそう思ったのではないでしょうか。
しかし、たかじんさんの手術は簡単ではなく、治りが早くもありませんでした。
手術の後、縫合不全という合併症が起こってしまったのです。
少しだけ残した食道と胃をつないだ傷口がうまく縫えていなかったために、ほどけてしまい、消化液がそこから漏れたのです。
急いで再手術が行われましたが、今度は内視鏡手術というわけにはいかず、胸からお腹のあたりを大きく切ることになったそうです。
内視鏡手術は、体の表面から見える傷が小さいため、軽く済むようなイメージがありますが、臓器を大きく切れば、当然傷も大きく、危険も大きくなるのです。