ほうきを振り上げた彼が

ココロの架け橋 中野敏治

今では立派な経営者の彼ですが、実は中学校時代、ほうきで私に殴りかかってきた生徒なのです。
ある日、遅刻してきた彼に服装を指導したときのことです。
昇降口で彼と言い合いになりました。
興奮した彼は、近くにあった柄の長いほうきを私に振りあげたのです。
ほうきを振り上げた状態で、しばらく沈黙が・・・。
彼の興奮ぶりからすると、そのほうきで殴られても不思議ではありませんでした。
しかし、私は彼の方に1歩踏み出しました。
もし、彼がほうきで私を殴ってきたら、今までの私の指導は間違っていたことになる。
「間違っていない、間違っていない」と自分の心に言い聞かせていました。

しばらく彼と私はその状態のまま、静止していました。
そして彼は、振り上げたほうきを投げ捨て、私の前から去って行ったのです。

成人式の晩、彼とそんな昔話をしながらお酒を飲みました。
成人をした彼は、自分の道をゆっくりでしたが歩き出していました。
車の代行業者を始めるまでは、きっと大変な苦労があったと思います。
何人かの従業員と共に、「お客様のために」と会社を経営していたのです。
でも彼が大切にしていたのは、お客さまだけではありません。
従業員を本当に大切にしていました。
しつこいほどに大切に。
そして、彼は数年後に2つ目の会社を立ち上げ、成功への道を歩んでいます。