60代で体験すること

70歳からの選択 和田秀樹

60代になれば、前頭葉の委縮はさらに進んでいます。
通常、人間は脳の1割くらいしか使っていないので、50代のうちは前頭葉が委縮しても、まだ生活のマンネリをやめるくらいで、その老化を防ぐことができるのですが、60代では前頭葉の委縮に加え、定年で会社を去ることによって、やりがいの喪失感や外部からの刺激がなくなることで、意欲が失われていきます。
しかも、60代半ばともなれば、子どもも成人して手がかからなくなる時期です。
子供が独立して家を出ていくといったことでも、日常生活から刺激が失われていきます。

その一方で、親の介護問題も60代くらいから顕在化していきます。
親が転んで骨折して寝たきりになった、あるいは認知症が進んできたという事態に直面するケースが多くなってくるのです。
親を自宅で介護するとなると、食事や下の世話も含めて24時間労働になり、疲労困憊するケースが非常に多いのです。
子育てならば、わが子の成長を見る楽しみがありますが、親の介護では基本的に次第に衰えていく親の姿を見ることになります。
これは自然の摂理ですから当然のことなのですが、それでもそうした衰えを自分の責任のようにとらえ、より介護にのめりこんでしまうこともよく見かけます。
そうした場合、親が亡くなった時に、一気に反動がくることが少なくありません。
喪失感からうつ状態になってしまうのです。