褒めること 2

いのちの言葉 精神科医 なだいなだ

ふとしたときに、アルコール依存症の患者さんに、最高でどの位お酒をやめていたことがあるのか聞いたところ、その人は最高2日だというのです。
最高2日の人が、3カ月もやめていた、それはかなりのものじゃないかと褒めました。
褒められると人間は変わるんですね。
照れながら「褒めることもないでしょう。たったの3か月ですよ」なんて、言うんです。

精神科の患者さんたちというのは、正直言わせてもらうと非常に面白い。
自分で自分を、「カスガ天皇」と称する人がいました。
この人は、ボーナスをくれるんですよ。
赴任したての頃、最初の回診をしていたら、さりげなく紙切れをポケットに入れてくれました。
「5万円」という数字が書いてありました。
若い看護師さんに「これ、何だ?」と聞くと、「カスガ天皇のボーナスですよ。毎年、この頃になると暮れのボーナスが出ます」というのです。
「私ももらいました」というので、「いくらもらった?」と聞いたら、「私は30万円もらいました」と言います。
「えーっ」ただの紙切れなのに、人間って、つまらないことに悔しがるものです。