生活の中に小さな楽しみを盛り込む

辛い気持ちが消えていく 斎藤茂太

私はしばしば講演を依頼されるが、本当のことを言えば大勢の人の前にたって話すというのは苦手だ。
もう数え切らないほど講演をやってきたが、いまでも控室で出番を待っている間は極度な緊張に襲われ、心底「嫌だなあ」と思う。
その場から逃げ出したくもなるし、そのうちに胃袋の内側を爪でひっかきまわされているような,耐えられないほどのつらい気持ちになる。
けれども、もう逃げるわけにはいかない。
そういうとき私は、講演を終えた後、緊張感から解放されて一杯やるお酒のおいしさを頭に浮かべている。
子供じみた作戦だが、これでずいぶん嫌だなあという思いが実際に和らぐ。

こういう他愛もないことが、心には効くのである。
生活の中に小さな楽しみを盛り込むことが、気持ちにメリハリをつけるコツである。
辛いことでも頑張る・・・その後は羽を伸ばして、思いっきり楽しいことをする。
やりたくないことでも我慢する・・・その後は気持ちを解放してのんびりする。
こういったリズムが、生活にメリハリ感をつくっていくのだ。