理不尽な怖さ

パニック障害、僕はこうして脱出した 円広志

病気は仕事を降板して治そうと思った。
しかし、今度は収入がなくなる。
自分はもとより、従業員の家族の生活はどうなるのか。
そんな身勝手が許させるのか。

大きな地震が来て、しばらくした後、揺り戻しが来る。
それと同じように、仕事から解放される、不安から逃れられる、と思った途端、今度は震度5クラスの余震に見舞われたような新たな不安が押し寄せた。

口を開けば「怖い、悲しい、つらい」と繰り返した。
妻には傍にいて欲しいものの、それでいて「大丈夫?」「しっかりしなさいよ」と言われるのが嫌だった。
その言葉によって、余計に追い詰められるのだ。
うつ病の人に「がんばって」と声をかけてはいけないのと同じ理屈である。

周囲の人たちは、僕の状態がどんな塩梅なのか知りたかったはずである。
ところが、病気の症状を説明しようにもうまく伝わらないのだ。
暗がりが怖い、高い所が怖い、広い所も怖くて、狭い所も怖い。スピードが出る乗り物も大音響も恐怖を呼ぶ。
「えっ、何で?」とこうなるが、どうして怖いのか自分でも説明できないのだ。