死を前に語る

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

患者さんが何を思っているのか、何を大切にしたいのか、その対話の中で、患者さんがふと漏らす言葉には、しばしば驚かせられることがある。

ある70代の男性患者さんは、ご自宅で家族に見守られながら、私に意外なことを語り始めた。
「先生、私はこれまで自分勝手に好きなように生き、ここにいる家族らにも迷惑かけっぱなしでした」
「うらやましいです。ご家族が好きに生きることを許してくださったんですね」
「いや、本当にありがたいことだったと、今になって思います。お金の苦労もかけ、体のことでも心配かけ、自分が家族にしてやれたことって何だったのかと思います。今は、家族に感謝したい。こうして生きていられるのも家族のおかげです」

やんちゃな人生を送ってきたという男性が、家族の前で神妙に感謝を語り、そのような言葉を男性の口から聞いたことがなかった家族が涙ながらにその言葉を聞いている。
そんな時、長年の家族のわだかまりが、たった一言で消え去っていくような空気が感じられた。