死と不安を乗り越えて

1,000人以上を看取った緩和医の本より

私たちはより素晴らしく、より美しい生活を求めます。
一方で、望みを高くすることで不満も生み出しました。
ずっと青い鳥が幸せを運ぶことを願い、それが運ばれてこないと不満に感じるのです。
そして、不満を誰かのせいにするようになりました。
また、今持っているものを失いたくないと思うようになりました。
何かを失うのが怖い、不安もこうして増えていきます。

客観的に見れば過酷な人生を歩んできた人が「私は幸せです」と言い、恵まれた人生を歩んできたであろう人が「私は不幸です」と言う。
外側から見て、どういう人生を歩んできたかは関係ありません。
結局、その人にとって「その人生がどうだったか」ということなのでした。

問題は、人の一生は必ず終わるということです。
だから、モノを得たことは、それ自体は何の救いにはなりません。
人は、所有しているものは必ず全てを失うことになるからです。
けれども死を前にした人は、この虚無を大なり小なり持ちつつも、しかし今を生きることの素晴らしさに気づいています。
生きていること、そのかけがえのないことをです。
不安や不満は究極的には外から決まるものではありません。
その人の性質やものの考え方によっているのです。

最後に自分を救うのは、自らの心の持ちようを変えることです。
心の持ちようを変えるには、人はいつか死ぬことを認めることです。
死による嫌悪感や恐怖の向こうに、精一杯生きることや、生への感謝が見えてくるからです。
そうした過程を経て、不安や不満が薄らいでくるのです。