本気で叱る

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

師匠の一見手荒いやり方が、僕以外の人にも功を奏した例をお話ししましょう。
あるお母さんが、息子のことで悩んでいました。
父親が事業に失敗して借金を抱え、お母さんも必死に働いている状況だというのに、25歳になる息子は親を助けようとも働こうともせず、屁理屈をこねて社会批判ばかりして、家に閉じこもっているというのです。

僕は師匠と一緒に、ある家の夕食に招かれていて、そこにお母さんが息子さんを連れて相談に来られたのです。
そこに現れた青年は、最初か ら斜めに構えて、出された料理には箸もつけません。
お母さんは礼儀として一応いただき「おいしいですね」と社交辞令でも言ってほしいのですが、彼は「いらない」の一点張りです。
師匠はいろいろ話しかけて、うまく青年の口を開かせました。
彼は何が気に入らないのか、なぜ家にこもっているかなど、自分勝手な理由を理路整然としゃべりました。
「そうか、あんたもあんたなりに、いろいろ悩んでいるんだな」
師匠は、彼と周波数を合わせて話しをしているのです。
「今は家族一丸となって、頑張ってみたらどうだ。あんたも若いんだし、男なら少しは家のためにと人肌脱がないとな」
そんな話しをする師匠に、青年は多少共感を覚えてようで、素直に話しを聞いていました。
ところが、僕らの帰り際、玄関で彼は
「あんたが先生と呼んでいる人も、僕の考えに共鳴しているだろ。分かった?」
と馬鹿にした口調で母親に言い、さらにその頭を軽くたたいたのです。
それを師匠は見逃しませんでした。
突然、今までのやさしさからは想像もつかない大声で
「こら!っ! 親に何をする!!」
といきりたちました。
「きさま、何様のつもりだ!! 俺が今日、どれだけ下手に出て、自分は頭がいいと思い込んでいるおまえに、どれほど合わせてやったか、分からなかったか! そんなことも読めない子どもが、分かったような口を聞くんじゃない!」
怒鳴りつけられた青年はムッとして、また屁理屈を言い始めました。
その途端、師匠は彼の首根っこを掴むと、そのまま床に押し倒し、グーッと押さえつけました。
「まだ分からんか! このまま首を絞めたら、おまえ1分で死ぬぞ。こんな事態になると予測もできなかっただろうが! それが今のおまえの能力なんだよ。分を知れ」
それでも青年は、半べそをかきながら、とぎれとぎれに屁理屈を述べます。
「暴力は反対です。自分の親にもこんなこと、されたことないのに・・・」

「本気でやるというのは、口先や頭だけじゃいかんたい。行動が伴わんと。何でもいいから、家のために稼いで来い。それがお前の役割だ」
家に引きこもっていた青年も、本気で叱ってくれる大人と出会い、積極的に生きることに目覚めたのです。
「あなたに言われたからでなく、自分の意思で明日から仕事を探します」という言葉を」残し、すっきりした顔で帰っていきました。