教室には誰もいなかった

ココロの架け橋 中野敏治

休み時間になると、ある生徒は器をもらいに、ある生徒は職員室に牛乳をもらいに教室を飛び出して生きました。
クラスのみんなが子猫の周りに集まり、早く元気になってほしいと牛乳を器に入れて子猫に与えようとしました。
しかし、子猫はなかなか飲もうとしません。
そのとき1人の生徒が自分のハンカチを取り出し、そのハンカチに牛乳を染みこませ、子猫の口に持っていきました。
弱弱しい子猫もやっと牛乳を舐めるようにして、飲み始めました。
生徒から歓声があがりました。

午後の授業開始のチャイムが鳴りました。
私が教室に近づくと、教室はシーンとしているのです。
そっとドアを開けると、教室には誰もいないのです。
生徒の机の上には、授業の準備ができていました。
でも、生徒も子猫もいないのです。

廊下に出たりグランドを見たりしましたが、生徒はいませんでした。
数分後、クラスの生徒たちが、みんな目を真っ赤にして泣きながら教室に戻ってきました。
「先生、授業に遅れてごめんなさい」と言いながら、それぞれが自分の席に着きました。

察しはつきました。
しばらく沈黙が続きました。
生徒全員がうつむいています。
「僕たちがあそこにお墓をつくったけどいいよね」
「何で死んじゃったのかな」
「俺たちでは助けられなかったのか」
「かわいそうだよ。捨てられて死んじゃうなんて」
みんな涙声でした。
そんな言葉が聞こえると、多くの生徒は声を出して泣き出しました。
私も何も言葉をかけることができませんでした。

やせ細った子猫を登校途中に見つけ、そのままにできなかった男子生徒。
その子猫をクラスのみんなで助けようと、クラスのみんなが一丸となって一生懸命に動きました。
子猫がクラスの生徒に残したものは大きなものでした。