悲しみを通して

東井先生が76歳の時でした。
小学校の先生をしていた息子さんが、突然、脳溢血で倒れ、病院に担ぎ込まれました。
家族の叫び声も届かず、植物人間になってしまったそうです。
まだ42歳でした。

ただ昏々と眠り続ける息子さん。
隣の病室では、重病の患者さんが「痛い!痛い!」と言って泣き叫ぶのが聞こえます。
でも我が子は、痛みすらわからず、ただ眠り続けるだけです。
東井先生は、隣の患者さんのうめき声を聞きながら
「ああ、うらやましいなあ。せめてうめき声でもあげてくれたら・・・」と悲しみに暮れたと言います。

そんなる日、東井先生は、「死ぬに死ねない・・」と言う言葉があることに気がつきました。
先生自身が、まさにそういう立場に立たされていたからです。
「自分の死に対しては、どうやらジタバタしないですむものを掴むことができた。でも、もう一つ奥の世界があることが分かった。人の死について『代わってやれない事の辛さ』『死ぬに死ねない世界がある』ことが見えてきた・・」と言いました。
今、自分が我が子を思うように、仏さまが今の自分に対して、同じような情けをかけてくれているのではないかと、気がついたのです。

それを知ったとき、東井先生は泣けてならなかったと言いました。
息子さんの病気が、東井先生の目を開いたのです。