心の奥に封印された希望をクリアしておく

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

多くの患者さんは、ガンが大きくなってしまうにつれて、痛みや苦しみが大きくなるとイメージしている。
しかし実際は、ガンが大きくなりすぎて死ぬことはまれで、ほとんどの場合、ガンの増大に伴って身体が衰弱して免疫力が低下し、肺炎や尿路感染症などを併発して亡くなったり、老衰のように衰弱で死に至るケースが多い。
患者さんの多くは、こうしたメカニズムにより「穏やかな最期を迎えられる」ことが多いのである。

しかし、意識のレベルが落ち、現実を認識できるギリギリのレベルになってくると、悪夢にうなされているように見える患者さんが一定数いる。
後に意識が回復した患者さんの中には、「幽霊を見た」「悪魔に追いかけられた」などと話す人もいる。
こうしたネガティブな幻覚が生じるときの条件として、患者さん本人が何らかのストレスを抱えていることが多いと私は感じている。
たとえば尿意があるのに排尿できないとか、痛みがある、あるいはそもそも自分が寝かされている環境に不満を感じているなど、患者さんが不快な思いをしている場合、それが悪い夢につながることが多いのである。

痛みのケアという技術的な問題はもちろんだが、「本当は別の場所で過ごしたい」「できればこの人には会っておきたかった」といったような、心の奥に封印された希望を、意思の疎通が十分できるうちにクリアして、安寧に過ごせているという充足感を得られていると、「すごく暴れて苦しんで亡くなったように見えた」と家族が思うような状況を回避することにもつながるかもしれない。