後悔

人生で大切なたった一つのこと 

年寄りが役に立つことがあります。
それは、「人生を振り返って、あなたが後悔していることは何ですか?」と訊ねると、年寄りは、きっといろいろ話してくれるでしょう。

あるお年寄りが、悔やんでいることはこういうことでした。
年寄りが小学6年生のときでした。
クラスに女の子が転校してきました。
その子の名前を「エレン」ということにしましょう。
エレンは体が小さくて恥ずかしやがりでした。
当時はおばさんしか使わない、両端が吊り上がった青いフレームの眼鏡をかけていました。
緊張すると、髪の端っこを口に入れてかむ癖がありました。

エレンは、みんなからほとんど無視され、からかわれていました。
「おい、オマエ、髪がうまいのか?」といった具合です。
こうした仕打ちがエレンを傷つけたことは、私にも分かりました。
エレンは目を伏せ、腹をけられたような苦痛の表情を浮かべ、自分の居場所がそこではないと思い知らされ、できるなら消えてしまいたい、と思っているようでした。

エレンは家で、こんな会話をしているのだろうな、と想像しました。
お母さんが「今日、学校はどうだった?」と聞くと、エレンは「ああ、普通よ・・」という。
「お母さんは「お友達はできたの?」と訊ね、エレンは「もちろん、たくさんね!」と答えている姿が想像できました。

時々、エレンが家から出るのをためらうように、庭に一人でたたずんでいるのを目にしました。
やがて、エレン一家は引っ越しました。
それでこの話はおしまいです。
悲劇もないし、別れ際にひどいいじめにあったわけでもありません。