引きこもりの中学生が・・・

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

理由があってベッドに潜っているのでしょうから、無理やり引っ張りだしてもダメでしょう。
仕方なく、僕もベッドの下に潜り込みます。
「頑張って外へ出てみないか」ともいえません。
頑張れなくて困っている人間に「頑張れ」というほど酷な話はないのです。
こちらから、相手の所に飛び込むしかないでしょう。

ただでさえでかい体の僕が、ベッドの下に潜ると、もう窮屈で、彼とぴったりくっつくしかありません。
そんな変な格好で、僕は自分の中学時代の話しをしました。
13か月間、同級生から完全に無視されて、一言も口を聞いてもらえなかった、辛かったあの頃の話しです。
「でもなあ、その経験があったから、それからは僕は人と波長を合わせることを大事にし、大勢の人たちとのいい出会いができたんや。人間って不思議なもんだ。あの頃は本当に毎日がつらくて、自殺も考えたのに、今振り返ると、こんな人懐っこい僕に、そんな苦しい悶える時期があったんやと、笑える話のネタになるんだから。今の君だって、しんどい、つらいと苦しんでいるけど、未来から振り返ってみたら、ベッドの下に中村さんと潜り込んで、長々話しをしたなあと、懐かしい思い出になるんだよ。友達や恋人に話して聞かせられる、いい話しのネタになる日がきっと来る」

彼がこちらを向いてくれたのは、それからでした。
彼も一人苦しみながら、救いを求めているのです。
「人から言われてうれしい言葉って何?」とか
「好きな子おるんやろ?」など、2時間余りベッドの下で話し込みました。
「今とは違うスタートラインにたってみないか。足を一歩踏み出してみよう。な、そうしよう」
最後に彼と、そんな密約を交わしてベッドから這い出てきました。

そして半年後、なんと彼は堂々と外に出てきました。
僕の講演を聞きに来てくれたのです。