屋久杉が苦しいと悲鳴を上げている

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

不思議な体験とは、ある展示場でおびただしい屋久杉作品を見て、その場を出ようとすると、何か屋久杉が自分を呼び戻すような気がするのです。
何か叫んでいる、何か訴えている。
しかし、その声が何を言おうとしいるのか、この時の岳南さんにはまだ分かりませんでした。

自然に作ったものが人の目に留まって売れるのだから、「売らんかな」とは違う。
それはそれでいいのではないか、そう考えていたのだといいます。
しかし、その岳南さんの心を、時々疑問が捉えます。
「作りたいものを作って、人は喜んで買ってくれている。しかし、これでいいのか。あの杉の叫びは何だったのか? 俺は何のために屋久杉と向かい合っているのだろう」
そして3年ほど経ったころ、今度は、杉の叫び声が悲鳴となってはっきり聞こえてきたのです。

当時の作品は、他の人と同じように、全部ニス仕上げで、光が反射するくらいにテカテカに上塗りしていました 。
それがきれいで、一般受けもしていました。
でもそれは、本来の屋久杉の姿じゃないことに気がつきました。
厚く塗られたニスは空気を遮断します。
杉は、その窒息状態で「苦しい」という叫び声を上げていたのです。
「俺は迂闊なことに、それに気づかんかったんや」
その日から、岳南さんは従来のやり方をすべてやめてしましました。