屋久島というところ

人のご縁ででっかく生きろ 中村文昭

屋久島での暮らしぶりを聞くうちに、僕は屋久杉のもつ不思議な力を意外な面からも発見することができました。
というのは、生きることにつまづいた人が、吸い寄せられるように屋久島にやって来ることが多いらしいのです。
なぜ生きているのか分からない。
あるいは、死んでしまいたい、消えてしまいたいといった願望を秘めた人たちが、島の宿に何日も泊まっていたり、山を歩いているのだそうです。

何かを求めて山中を歩き回っていると、同じ目的でそこに来た人と出会うこともしばしばで、そんな若い人が連れ立って、岳南さんの工房を訪れることもあるそうです。
単に商品を買いたいだけのお客さんには、紹介者がいないと中々会わないのが岳南さんです。
ところが、岳南さんは生きる道に迷ってしまったような若者は、ためらわずに受け入れます。
彼らは、工房に並んだ作品をただ見たいというだけなのに、その独特の空気を感じ取る岳南さんには、それと分かるのだそうです。
「顔を見ればすぐ分かる。死のうとしていた人にもたくさん会ったし、話しを聞くために家に泊めることもしょっちゅうあるんや」