子供を30年間探し続けた 2

子供を探し続けて諸国を訪ね歩くうちに、いつしか30年の月日が流れていた。
ある時、川面に映った自分の姿を見て母は愕然とした。
髪は真っ白になり、しわは深く、やつれた顔・・・。
「ああ、あれから30年も経ったのだ。あの子が生きている保証は、万に一つもないだろう。もう故郷に帰り、せめて菩提を弔おう・・」
夢から覚めた心地で、母は船に乗り帰路についたのである。
すると、同じ船に乗っている客の噂話が聞こえてきた。
「今この国で、一番尊いお坊さんは、やっぱり東大寺の大僧正、良弁様であろう」
「その良弁様は、杉の木の下で生まれたと聞いたが・・」
「違う、違う。何でも、子供をさらったオオワシが東大寺の杉の木の下に運んできたそうだ。もうちょっとで食われるところ、泣き声に気づいた僧侶が助け出したらしい」

百雷のごとき衝撃が、母の胸に走った。
「もしや、光丸ではなかろうか・・・!!」
心はすでに奈良に飛び、何も考えずに旅路を急いだ。