子どもが誕生

上京物語 喜多川泰

やがて彼は結婚しました。
当初は、奥さんと二人で貯蓄に励んだので、一人で貯蓄するより速いペースでお金は貯まっていきました。
そして間もなく、子どもが生まれました。
家族が一人増えた新しい生活は、この上もなく幸せでした。
ただ収入源は一人になり、金銭的には苦しくなりました。
子どもの誕生をきっかけに、彼はそれまで以上に必死に働き始めました。
その頑張りに比例して、社内での地位も給料も年々順調に上がっていきました。
それと引き換えに、子どもに会える時間はほとんどなくなってしまいましたが、子どものために働いているんだと自分に言い聞かせているときは、妙に力が沸いたものです。

やがて貯金が600万円貯まりました。
これで独立したいと思って、アイデアを妻に話しますが、そのアイデアはどれも一獲千金のギャンブルにしか聞こえませんでした。