励ましは逆効果

いのちの言葉 ホスピス医 柏木哲夫医師

末期ガン患者さんの、「先生の役に立ってから死にたい」と言っていただいたので、私は「私のやり方や言葉、態度の中にきっと間違いがあったと思いますから、ここは注意をしておいた方がいい、ということを教えてください」とお願いしました。
すると彼女は「先生、1つあります。ひと月くらい前に、私が先生に『私、もう駄目なんじゃないか』と言ったとき、先生は励まされたでしょう」と、切り出されました。
確かに私はその時、反射的に「そんな弱音を吐いたら駄目ですよ。私も一生懸命やりますから、がんばりましょう」と言ったのです。
彼女は「私は先生に弱音を吐きたかったのに、先生が励ますので二の句が継げませんでした。そして、やるせない気持ちになりました」と言いました。

弱音を吐く患者さんを力づける、励ますのは、医者として当然だと思っていました。
ところが、死が近い患者さんに「それは間違いですよ」と指摘されてしまったのです。
励ますことは必要ですが、患者さんが弱音を吐きたい時期が来たら、励ましは逆効果になってしまうのです。
この間違いは、家族の方も犯しやすいのです。