努力してもどいうにもならないもの

辛い気持ちが消えていく 斎藤茂太

気持ちがつらくなったときには、無理に振り払おうとするのではなく、そのつらさをしみじみと味わってみること、落ち込み上手になること。
それが、早くつらい気持ちを晴らすことにつながる。
あまりジタバタせずに、なるがままに任せよう、ということだ。

ある心理カウンセラーに聞いた話だが、相談に来るたびに「すみません、すみません」と謝る人がいたそうだ。
「なにをそんなんに謝っているのですか」と聞くと「いっこうに立ち直ることができません。気持ちは落ち込んだままで、どうしようもないので、またここへ来てしまいました。カウンセラーの先生には、ご迷惑ばかりかけて、本当にすいません」なのだという。

これまでにこれといった失敗や挫折を経験することなく、順風満帆の人生を送ってきた人には、往々にして「努力すれば何とかなる」という信じ込みがある。
しかし、いくら努力してもどうにもならないものもある。
人の心など、その最たるものだ。
つらい気持ちからは、そう簡単に立ち直れるものではない。
そのことが理解できないから、立ち直れないのは自分の努力の所為と、短絡的に結論付けてしまう。
カウンセラーの先生が、一生懸命になって、自分を立ち直らせてくれようとしているのに、自分の努力が足りないから、一向に立ち直れないと罪悪感を持つ。
だから「すみません」なのだ。