伝えられなかった言葉 1

軽音楽部に所属する哲夫に、友達が紹介してくれたのが善夫だった。
善夫はベーシストで、すらりと背が高く、顔だちもカッコよくて、普通に過ごしていたら哲夫の人生とは接点がなさそうなタイプだった。
でも哲夫と善夫は音楽の趣味を通して、すぐに仲良しになった。
そして夏休みも終わりに近づいたある日、バンド練習の帰り道、突然善夫が「そういえば、俺、今日誕生日や!」と言った。
「え? マジで? はよ言えや!」
けど財布の中身はすっからかん。
仕方ないので近くに会った駄菓子屋に入り、”うまい棒”を買って渡した。
すると善夫は「ありがとな! 今年祝ってくれたのはおまえだけやわ!」と素直に喜んでくれた。
まさか、そんなに喜んでくれるとは思わなかったので、哲夫もうれしくなった。

その後は自分たちで場所を借りてライブをしたりしていた。
本当に毎日が楽しかったが、ドラムが3年生だったこともあり、バンド活動はだんだん減っていった。
ある日、部室で楽器をいじっていると善夫が言った。
「このままバンド自然消滅すんのいややな! おれ、お前のオリジナル絶対いけると思うねん」
僕たちのバンドはコピー専門のバンドだったが、実は少し前にオリジナル曲を作って善夫に聞かせていたのだ。