介護の拷問

大往生したけりゃ医者とかかわるな 中村仁一

私たちは枯れかけている食物に肥料をやるでしょうか。
万一、肥料を与えたとしても吸収しませんから、植物に害はありません。
ところが、人間の場合は違います。
体内に「肥料」を無理やり入れるわけです。
いかに、死にゆく人間に苦痛と負担を強いているか、想像に難くないでしょう。

葬儀社の方に聞くと、「昔は年寄りの納棺は、枯れて亡くなっているので軽くて楽だった。しかし、今、病院で亡くなった人の遺体は重くて大変だ」といいます。
最後の最後まで、点滴づけ、水づけですから、いわば、溺死状態。
重いのは当然と言わざるを得ません。

介護の「拷問」を受けないと、死なせてもらえません。
例えば死が迫ってくると、当然、食欲は落ちてきます。
すると、家族はカロリーの高いものを食べさせようと努力します。
少量で高カロリーのものといえば、脂肪の含有量が多く、脂っこいものではないでしょうか。
それを、無理やり死にかけの病人の口に押し込むのは、どうなのでしょう。
勝気の人なら吐き出すでしょう。
しかし、気の弱い人は、介護職員にピタリと横にはりつかれて、次から次へと口の中に入れられるわけですから、仕方なしに飲み込むでしょう。
けれどもその結果は、当然、吐くことになります。
少しでもカロリーの高いものを食べてもらおうという優しい心遣いが裏目に出て、ひどい苦しみを与えることになります。