人生は出会い、気合

病院でボランティアで働いていた人の回想から

ある晩、当直の医師から末期ガンの患者に付き添うように頼まれました。
「彼には身寄りがないので、亡くなるまでの3時間くらい、傍にいてあげてください」と。

私は、一体彼に何をしてあげたらいいのでしょうか。
もちろん救うことはできませんし、癒してあげることもできません。
日常生活の話し、政治の話し、テレビや新聞のニュース、スポーツなど、私たちが日常話しているテーマは、あと3時間で亡くなる人にとっては全く意味のないことです。

そのとき、ふとレコードをかけてみようと思ったのです。
モーツアルトの「レクイエム」を流すことにしました。
この頃はまだ音楽療法という「言葉」はありませんでしたが、モーツアルトの美しい調べが、患者の気持ちを和らげてくれるかもしれないと考えたのです。
彼も「レクイエム」に興味を示してくれたので、一緒に聴き、祈ることにしたのです。

一生懸命に考えた末、辿りついた答えが「祈り」だったのです。
この3時間は、私の人生の中で最も長く感じられたものになりました。
「人間の生とは、死とは」あれほど真剣に考えさせられた時間はありませんでした。

35歳の若さで亡くなったモーツアルトが、死に際に作曲したという「レクイエム」
この曲には、間もなく死を迎えなければならないという悲しみや苦しみと同時に、死がすべての終わりではないという、生命の希望が表現されています。

その時です。私は将来「死生学をライフワークとして学んでいこう」と決心したのです。
末期ガン患者との出会いの3時間で私の人生は決まったのです。