人生のラストシーン

ガンになった緩和ケア医が語る 関本剛

たとえ自分の命が残り僅かという現実があったとしても、最期まで真・善・美を希求し、自暴自棄になることがない人はある一定の確率で存在する。
また自暴自棄だった人が、自分の残り時間と向き合うことで精神が純化され、高みに昇華するという現象が見受けられる人も数多くいる。
どの患者さんにもそれまでの人生がある。
うれしかったこと、悲しかったこと、輝かしい青春のハイライト、ドラマに満ちた人生を1本の映画に例えるならば、その作品のラストシーンが不細工に終わってはどうも具合が悪い。
患者さんたちは、そんな思いを多かれ少なかれ抱いているような気がする。

あと1~2年で死ぬかもしれないのに、この人は一体何を目標に生きているのだろうと思われる方もいるだろう。
ただ、実際にその立場になってみると分かるのだが、「有り金を使い果たして、うまいものを食べ、遊びまくろう」「本当に自分の好きなことだけに時間を使い、しんどいことは一切拒否しよう」という心境にはならない。
家族とできるだけ旅行に行きたいという気持ちは持っているが、いまだに「ここでは高すぎる」と思うし、体がかなりきつくなっても「ここで、少し無理した方がいいことがあるかもしれない」と考え、仕事に出かけることもある。
ガンになったからといって、社会性をすべて捨て去り、欲望の赴くままに生きるということは、現実問題として不可能なのだ。