人の身体に敬意をもって

いつでも死ねる 帯津良一

「外科医というのは器用じゃないとダメなんでしょうね」と、よく質問されます。
私の経験からいえば、器用に越したことはありませんが、それがいい外科医になるための絶対的条件ではありません。
中には、普段の生活ではとても不器用で、靴ひもを上手に結べないような外科医もいます。
こんな外科医に手術をお願いしても大丈夫だろうかと思うかもしれませんが、手術となると、人が違ったように見事にやってのけたりするものです。

手先が不器用な人は、大学時代も医者になってからも、器用な人間なら1回か2回でマスターできることを、何度も何度も繰り返して練習します。
周りの人が帰ってしまっても、一人残ってトレーニングをするわけです。
これが後々生きてきます。
10年経ち20年経つと、腕の差なんてなくなります。
なくなるどころか、不器用な人のほうが、きちんと丁寧に手術ができるようになるのです。
器用とか不器用よりも、私が外科医として大事にしてほしいのは、人の体にメスを入れるわけですから、患者さんの身体に敬意をもって手術に当たるということです。