ローン

上京物語 喜多川泰

妻は旦那がほんとうにやりたいことに対して、お金を使いたいと言い始めるのを待っていました。
思い付きのギャンブルに、今まで苦労して貯めたお金をつぎ込むわけにはいかなかったのです。
だから彼が、ビジネスプランを持ってきたときは、ダメそうだと思うことを遠慮しないで言うと決めていました。
彼がどうしてもやりたいことを見つけるまでは、必死で節約して貯めてきたお金を手放すつもりはありませんでした。

彼女は、何のためにお金を貯めているのかという理由があった方が都合が良かったので、家を買いたいという立場でいることにしました。
結局彼は、自分がほんとうにやりたいことが見つからず、妻の希望通りマンションを買うことにしたのです。

住宅ローンの返済年数はとてつもなく長いです。
ローンを払い終わるころには、60歳を優に超えてしまいます。
自分の城を手に入れた割には、達成感とか充実感を感じることができませんでした。
むしろ何とも言えない不安や重荷を背負っているという感覚が心の中に残ったままでした。