ホスピス医からのメッセージ

「求めなければ満たされやすくなる」終末期の患者さんが教えてくれることが、これである。
「生きているだけで幸せですよ」という、気後れするような気高い微笑み。
それに日常的に触れていると、自らも余計なことを望まなくなるから不思議である。
日常を慎ましやかに過ごすだけでも、穏やかな幸せを感じるのである。

終末期の患者さんや肢体不自由な方など、一見大変そうに見える人の方が、健康な我々より穏やかで笑顔をたたえて生活していることが少なくない。
ここに幸せの秘訣がある。
つまり幸せは環境によって決まるのではなく、すべては物事の捉え方しだいということだ。
欲を減らし、あるがままの状態を楽しむことができれば、心は平穏を見つけ満たされるであろう。
いつかは手放すであろうモノに執着しなくなると、それは心を軽くする。

いやむしろ、得ることが多くなったからこそ、失う恐れを持つことも多くなったろうし、自分よりもっと得ている人のことをマスコミが面白おかしく報道するものだから、自分と比較して苦しむ。
また選択肢が多いので、余計に何を選んで生きていってよいのか分からなくなり、自分探しを続けるしかないのかもしれない。

かつての人が「なるようになるさ」と、そう思って生きて死んでいったと同じように、私たちもそう考えることができれば、心の重荷はスッと楽になるであろうに・・。

これは終末期医療に従事する医師のメッセージです。
今私は一人、誰もいない早朝の山小屋の中で、鳥の囀りを感じながら、靄にかすむ富士山を眺めています。
静けさの中でこうした文章に触れると、心が洗われます。
なぜか「ありがとう」という言葉が自然に湧いてきます。