ペットロス

いい言葉がいい人生をつくる 斎藤茂太

あまりのもべたべたとのめり込んだようにペットをかわいがる一部の風潮には、職業柄か社会の病理を見てしまう。
ペットロスの患者さんが増えている。
ペットの死を受け入れられず、鬱状態になってしまうのである。
中にはしばらく何も手につかず、ついには仕事もやめてしまう例もあるくらいだ。

こうした患者さんに「たかがペットが死んだくらいで」などというと、とんでもない結果になる。
患者さんにとっては、ペットは大切な家族であり、恋人、友人なのだから。

ペットが家族の一員であるという気持ちは理解できる。
だが、こうした風潮には家族間の精神的関係のゆがみが象徴されている気がする。
人間は、犬や猫を自分本位に愛することができる。
犬や猫にも感情はあるけれど、人間の方が絶対的に有利なのだ。
ペットの気持ちを斟酌するといっても、所詮は人間の都合である。
絶対者がもたらす慈悲と、対等な関係での思いやりとは違うのだ。
ペットブームは、人間同士の対等な付き合い方ができなくなっている象徴なのではないだろうか。