つらい気持ちはその日のうちに

辛い気持ちが消えていく 斎藤茂太

Cさんは、定年で職場を離れることになり、スケジュールに振り回される生活は、もうおしまいと思った。
これからは思う存分、勝手気ままにダラダラした生活を楽しめるぞと喜んでいた。
朝寝坊する、ボケーッと半日を過ごす、新聞は時間を気にせず隅から隅まで読む・・と、まあ半年くらいは、そういったダラダラした生活も楽しかった。
ところが、だんだん、そうした生活が苦痛になってきたという。
生活に張りがなくなってしまったのだそうだ。

そこで定年退職したら二度と持つまいと決めていた手帳をまた買った。
そうなると、何か予定を書き込みたい。
そこで趣味を作ったり、ボランティアを始めたりで、また何だか忙しい生活に戻ってしまったが、現役時代の仕事に追いまくられる生活とは違って、楽しい、生きがいのある老後を送っているという。

つらい気持ちは、その日のうちに解決して、次の日には持ち越さないこと。
実際にはなかなか難しいことかもしれないが、やり方はある。
私は、夜寝る前の憂さの「書き捨て」を実行している。
悔しかったこと、頭にきたことを紙切れに「こんちくしょう、あんちくしょう」と書きなぐり、そのまま部屋の片隅にある段ボール箱の中に放り込んでおく。
口に出して言うと悶着が起こりそうなことを「書き捨てる」と、気持ちが一件落着して、つらい思いを引きずらないですむ。

段ボール箱の中から、昔書いた紙切れを取り出して読み返すことがある。
「しょうがないことで心を乱しているなあ。もう少し冷静になって考えてみることができなかったのかしら」と、私も唖然とすることが、しばしばある。